最後の雪
- すずめや
- 3月19日
- 読了時間: 2分
もうおそらく、積もるような雪は終わったと思う。
こうして春の前に積もる雪はべちゃべちゃで、したがってこの時期の雪かきはシャベルで水のかたまりをすくっているようなものでありたいへんしんどい。
ひ弱な作家業の身ではひとしお。
空港に行く道中に、台形の丘をいくつも連ねたような畑が広がる場所がある。
そこに雪が降ると、四角いスポンジケーキに職人が生クリームを塗りつけたような、なんとも美味しそうな四角の段々になる。
ではこの大きな四角の段々にフォークを入れる。
空から静かに降りてくる銀のフォーク。
大きな銀のフォークが降りてくるということは空の上には銀のフォークを鋳造することができる、さらに大きな鋳造鍋がある。
鋳造鍋があるならば匹敵する大きな火を熾すことができるかまどもある。
四角いケーキと一緒にいただくためにお茶を沸かす必要もあるのだから。
ケーキがあるならお茶がある、ということは空の上にはティーカップとティーポットもある。
ケーキはここにあるけれどティーカップは周りを見渡しても見えないので空の上の見えないところにあるということになる。
銀のフォークが作れるのならばティーカップとティーポットは金属製なのかもしれない。
けれどこの白い四角いケーキをいただくのにぴかぴかひかる金属製の食器ばかりではテーブルの上がやかましい。
ここは少なくとも陶器のものが望ましい。
陶器があるならば大地がある。
大地があるのならば森があるのでかまどの火を熾す燃料は樹なのだろう。
四角い畑は雪を纏ってケーキになって、空の上の可能性をどんどん広く、広くしてゆく。

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