top of page
検索

春の大風の日

  • 執筆者の写真: すずめや
    すずめや
  • 12 時間前
  • 読了時間: 4分

今日は集落のひとたちにたくさん会った。

我が集落はうちよりすこし奥にみんなの家が固まっていてうちだけぽつんと建っている。

だからそんなに道端で会うことってない。


でも今日は朝早くから迷い犬を連れたお兄さんがやってきた。

ずぶ濡れで震えた中型犬。

いったんうちにやたらある部屋のどれかでかくまうか、とも話したが迷い犬ちゃんはずいぶん不安そうで吠えたので、夫が自分の働く犬猫の保護施設へ連れていくことになった。

ちょうど出勤の時間だったので家の中に迷い犬がいたのは一瞬のことだったがぬげたも猫たちもなんだかそわそわしていた。

迷い犬は施設のSNSで呼びかけたらすぐに飼い主さんが見つかってめでたしであった。


飼い主さんが見つかったって伝えるためにぬげたの散歩は集落方面に行くことにした。

うちを出て左に曲がると集落へゆく、右にゆくと温泉街にゆく。

こないだおかずをお裾分けしてもらった方のうちに畑で採れた菜の花を渡そうと洗ってビニールにつめてもっていく。

このスタート地点でぬげたはちょっと変だった。

いつもお散歩スタートは私を引き摺る勢いで歩くのに全然行きたくないですみたいなかんじで座り込んだ。

きのうの散歩は初めての場所にお花見がてら行ったのでいつものこのへんのことをつまらないと思っちゃったのかな。

だましだまし歩き出すとまんざらでもなくなったみたいだった。


菜の花を不在ポストにいれ、迷い犬を連れてきてくれたお兄さんのうちにいろいろ報告。

山菜のよい採り場を教えてもらったり昨日の天気が大荒れで怖かったことを話したりぬげたがおやつをもらったり。

そしたらそのうちのおとなりさんが作業でお外に出てきていたので挨拶をするとこの人も迷い犬のことを気にかけていた。

無事に見つかったんだよの報告ができてよかった。

あとまえから約束していた田んぼの種まきのお手伝いがこのGWの長々とした出張の日程に合わなくなって流れちゃったことをあらためてお詫びした。


種まきのお手伝いはけっこうほんとに楽しみにしていた。

玄米食に凝っていたころ、炊く玄米を一日か二日くらい水につけておいて、お米の芽吹きの気配がしたころに炊くということをしていた。

お米の芽吹きというのはたいへん控えめな変化だけれどものすごくかわいい。

とんがって硬そうだったお米が水を含んでつやつやとしてきて、ぷくっと膨らむ。

静かな水面の下のあの風景が好きでわざわざ水に浸していた。

お手伝いの見返りにお米を下さるという話だったのだけど、正直特になくてもやりたがったと思う。

お米の膨らんでいるのはかわいいから。

育ってゆく景色もいつでも美しいし、いちどでもいいからしっかりお米の世話をしてみたい。


ぬげたをつれてまだ進み、集落の神社におまいりをし、天気が良いのでこのままもうすこし先の家の神さまのとこにいこうとぬげたをひっぱった。

いつもなら知らない場所にいくとぬげたはわくわくしてさくさく歩くのにこのときもなんだかのろのろしていて止まりがちだった。

お詣りに行くとむこうのうちの庭に集落のおじいさまが出てきていて、こっちをみつけたようだったので一応頭を下げたけどちょっと遠かったからわからない。


そしてさあ、帰るよ!

となったらぬげたはひとんちの前でびくともしなくなってしまった。

くたびれたのか体調が悪いのか、ひと休みしたらいいか、とぬげたと一緒にしゃがんでいたらうちから人が出てきてお話をした。

ぬげたが動かなくなった、と伝えたら疲れちゃったのかなあとかいってうふふと笑ってその方はお出かけに行かれた。

そのままぬげたは動かないので座っていたらそのおうちから小学生が2人でできて、ぬげたにおみずをあげなって言われた、とおみずをくれた。

先にお出かけされた方が小学生たちに指示を出してくださったらしい。

ぬげたはすこし飲んだ。だが動かない。

小学生たちはあの手この手でぬげたを動かそうとしてくれた。

最終的に自転車とその子たちのうちの犬のおもちゃで釣って動かすことに成功した。

話していたら小学生でも人生にはいろいろなことが起こるようで、むかつく先生や同級生の話や、もう小学二年生でもカップルがいるとか、お兄ちゃんの方には付き合って一年を越えた恋人がいることなどがわかった。

小学生たちとぬげたをかこみ、わちゃついているのを通り過ぎる車に乗ったひとたちは笑ってみていた。


迷い犬をみんなで心配する。

いい天気だから少し遠くまで散歩をする。

犬が動かないから止まる。

ご近所のかたと立ち話をする。

小学生に助けてもらう。


なんて平和で美しくにぎやかな一日だったろうか。

これが起こったのは午前中のことだったけれど、なんだか気が抜けて仕事になかなか集中がむかなかった。

こんなふうに肩の力の抜けた穏やかな一日がほんとにくるなんて、昔のわたしは思ってもみなかっただろうな。



 
 
 

Comments


Copyright © 2018 suzumeya

bottom of page