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執筆者の写真すずめや

本棚に着手

引っ越してからずーっと開いてない本の詰まった段ボールたち。

それがうんざりするほどたくさんあるのに出張に出るたび旅先で増やし続けてしまう本がそこらじゅうで小山を成している。

オンラインショップの在庫を詰めている棚もずいぶん手狭だ。

なんとかせねばならん。

ずっとそう思い続けていてようやく本棚の制作に着手した。


本当はせっかくある広々としたこのうちに、様々な風合いのアンティークのすてきな本棚を置いたりしたかった。

もしくはずっと憧れている本棚制作屋さんに頼んで、丈夫で美しいパイン材の本棚を指定した寸法通りに作ってもらう、というのも夢見ていた。

しかし三年が経過したいまも経済的事情で達成できそうもない。

この冬籠りでやるしかない。


ちょくちょく棚の制作をするためにサブロク合板を指定通りに切ってもらったりしているのと、なんといっても名前が珍しいのでホームセンターの資材売り場のおじさまたちと顔見知りになった。

顔見知りになったらしいことは、彼らの本当に些細な変化でわかった。

ホームセンターの通路ですれ違うときにささやかに会釈をしてくれたり、灯油販売所でこの灯油缶はネットで買ったって言ってましたかねえ、と話しかけてくれたりするようになった。

(うちの灯油缶はネットで買った黒いやつなので珍しいのだ)

関西だと店員さんは見知ったお客!となるとすぐ話しかけたりこちらの目をしっかり見てにっこり笑ったりするのですぐわかる。

この些細なところが東北らしくてなんともいえず微笑ましい。


本棚はおなじみの針葉樹合板のサブロクから切り分けて作る方式とした。

まず安価で丈夫であること、そして我がホームセンターのオリジナルらしいその針葉樹合板は秋田杉で作られているということ、その2点でお気に入りの材である。


第二のお気に入り材であるパイン材の経年変化による美しさ、加えて合板を上回る頑丈さは合板よりも本棚の材として大変すぐれていると思うけれど、サブロクから切り分けることの寸法の自由さ、というのを今回はとることにした。


材の切り分けをお願いしに行ったときは、あまり見かけないお若いお兄ちゃんが担当で、ちょっとたどたどしく注文を受けてくれたのだけど、店内を彷徨いているときに馴染みの木材切りマスターとすれ違ったのできっと彼が切るだろうと安心して店を出た。

注文が少し多かったので別日の受け取りになるのはわかっていた。

するとその日の、夜の迫った夕方に、意気揚々、とした声でホームセンターから電話があり、いつもありがとうございます!とビックリマークが見えるような喋り方で木材のカットが終わったという連絡をもらった。

それは控えめに会釈をする木材切りマスターの声に違いなかった。

電話を受けている最中からにやにやしてしまった。


さて、ということでここ二日くらいは本も作りつつ本棚を作っていた。

本棚を作りながらオーディブルで本を読んでいた。

目の前に料理の皿、両手に食べ物の刺さったフォークを持った食いしん坊のようなありさまである。

木材用のオイルが底をついたので、発注してそれが届くまで少し休みになる。

針葉樹合板は安価だけれど、驚くほどオイルを吸うのでオイルに関しては他の材より不経済かもしれない。

オイルを吸いすぎるので乾燥にも時間がかかるようだ。

去年おなじように作った棚では気温の高いうちに二日おいてもオイルの染みが紙に写ってしまっていた。

念には念を入れて一週間くらいは乾燥させたほうがいいだろう。


大学では建築系を専攻し、けっこう早々にこれ向いてないなあとわかって休学、そこから製本をはじめて、休学の期間が切れたのでとりあえず復学、そして卒業という遠回りの道を通った。

本棚の図面を引いていて本当に思う、

わたしはこの程度の設計で充分気が済む。

この棚に引き出しが欲しいと思うこともあるけど、その図面引きを面倒くさがっている。

板の断面を組み合わせる程度の設計で充分なのだ。

その程度で建築専攻などこうなって当たり前である。

まあでも向いてないのをわからず無謀に突っ込んでいった若さのおかげでいま製本を生業にしているわけで、遠回りも道、ということなんだろうか。



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